『逆ソクラテス』 著 伊坂 幸太郎
※ ネタばれは含みません。ご安心してお読みください
それは我が家でしょっちゅう口にする話だ。おまえたちをいじめる人がいたら、少なくとも、そいつが幸せになることだけは阻止するね、と。
『逆ソクラテス』 [逆ワシントン] 著 伊坂幸太郎 発行所 株式会社 集英社
引用したセリフは作中に登場するあるお母さんが自分の子供たちに向かって言った言葉です。いじめという行為が大嫌いなお母さんがいじめをおこなう者に対する姿勢みたいなものですね。
今回ご紹介する本は伊坂幸太郎さんの『逆ソクラテス』になります。長編が一篇というわけではなく、短編が全部で五作載っている形で、逆ソクラテスはその中の一つのお話のタイトルにもなっています。それぞれは、独立したお話になってはいますが伊坂幸太郎さんらしく、違う話の登場人物がちらっと出てくるなど、小粋な感じになっております。
独立した話であるとは記載しましたが共通の設定みたいなものがありまして、お話の主役たちは皆少年少女になっております。文庫版の作者インタビューにも載っていますが、伊坂幸太郎さんの小説で子供が主体になったものは珍しい、僕も今回初めて読ませていただきました。
子供は周りの影響をうけやすい
作品の中で登場する少年少女達は、結構大変な境遇に置かれています。モラハラ教師や、意地悪な同級生、凶暴犯。物騒なワードが横並びになるとゲンナリしますね(笑)
勿論作品のなかの話ではありますが、現実にも多いに起こり得ることだらけです。例えば、担任に邪見にされている生徒を自分たちも便乗して馬鹿にしたりや、大勢が見ている前で大声で罵声を浴びせるなど。
自分が子供だった時を考えれば、上に挙げたケースは何回かあったなと思いだされます。子供同士のことならまだ当人達で解決もできますが、これが大人から一方的なものだと子供は参ってしまいますよね。小学生なんかは先生の言うことが絶対みたいな部分がどうしてもあったりするわけで、大人からしたら何気ない一言でも子供にしてみたらそれが後々の人生にずっと残る体験なり言葉なりになってしまう可能性が大いにあります。それが良い方向であればいいのですが、悪い方なら最悪です。
それでも助けてくれる人はいる
逆境に立場に少年少女たちの前には、頼りになる同級生、親、教師が現れます。固定概念を吹き飛ばしてくれる助言に彼らは勇気をもらい、困難に立ち向かっていくことになっていきます。
本作は基本的には全てのお話はハッピーエンドで終わってます。作中の登場人物達は各々なにかしらの傷を抱えながら生きていますが、それぞれがその傷と向き合いながら希望を持って生きていこうとする姿を描いていっているように思えました。人生は辛いことばかりじゃないんじゃないかな。そんな感じですね。
どの作品も大どんでん返し、みたいなものではなく。読み終わった後に、ちょっと勇気がもてるような前向きな話が詰まっています。日常生活のちょっとしたもやもやなんかを抱えている人とかにぴったりな一冊ではないでしょうか。
伊坂幸太郎さんの作品の中には、ザ・悪といった感じで目を覆いたくなるような残忍なキャラクターが登場するイメージですが、今作に登場する悪役? みたいな位置づけのキャラクター達はだいぶ現実寄りの人達であると思います。あ~いるよなこういう奴。みたいな誰しもが一度は遭遇したことのある“いやなやつ”が出てくる感じです。なので、逆に嫌悪感を抱きやすくなっています(笑)
でも、我々はなるべく穏やかに平和で暮らしていきたいんですよね。なので口に出してもいいし、心の中で呟いてもいいです。嫌味を言われたらこう言ってやりましょう。「僕は、そうは、思いません」
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