『悪い夏』 著 染井為人
※ネタバレは含みません。安心してご覧下さい
きっと踏みとどまるチャンスはいくつもあった。気づいていながら気づかないふりをして流れに身を任せた結果が今ここにある。闘わず、抗わず、ひたすら目を瞑っていた結末がこの光景だ。
『悪い夏』 角川文庫 著 染井為人
今回は染井為人の『悪い夏』です。
お話の内容は生活保護受給者のもとを回る役所のケースワーカーである佐々木守が、受給者の元を訪れ様々な出会いをしていくなかで、自分でも気づかない内に道を外れていくことに。行きついた先に待っているものとはーーーー。
本の内容としては結構重たい内容になっています。こちらの作品すでに映像化もされているようで(未視聴です)きっと全編通して薄暗い重苦しい感じになっているんだろうなと想像できるほど、人の醜悪さが詰まった作品になっています。
文庫本の帯にも書いてある[クズとワルしかでてこない]はかなり的を射てる表現だと思いました(笑)
どうしようもないクズ達とワルたち
ケースワーカーである主人公の佐々木守の周りには様々な曲者が存在します。働きたくないからなんとか生活保護を受給しようとするおじさん。生活保護を受けさせてあげる代わりに肉体関係を迫る同僚。不正受給をして役所から大量の金を巻き上げようとするヤクザなど。個性派ぞろいの面々が作中大暴れをかまします。
周りに振り回される主人公佐々木守。しかし……
基本的に押しに弱く、人から強く出られると反抗できない佐々木守。結果的にその性格が災いして、面倒なことに巻き込まれていく佐々木守なのですが、彼にとっては全ての人との出会いが不幸なわけではありませんでした。それは林野愛美との出会い。愛美はまだ小さな娘の美空と二人で暮らしており、生活保護を受給しています。ケースワーカー生活保護受給者という立場の二人の出会いは最初こそほんの小さなきっかけだったのですが、それから次第に互いが互いを意識し合う関係になり、いい雰囲気が流れるようになっていきます。
後半はハチャメチャだー
先に言っておきます。後半はすごいです。悪人大集合みたいな感じになります。一体最後どうなるんだよ(笑)もう最後はお祭り騒ぎになるので必見です
生きるのって大変だよね
ブログの冒頭に作中のとある部分を引用したのですが、自分でなんとかしないといけないのは分かっているんのだけれど、現実を直視せず逃げてしまった結果最後に報いを受ける。
作品の中の登場人物達もワルだクズだと言われていますが、それぞれに葛藤を抱えながら生きています。現実の世界でもそれは同じで、人それぞれ悩みや不満を持ちながら生活をしていますよね。
流れに身を任せ結果が地獄でしたを当然と言ってしまうのは簡単ですが、全ての人間が困難に立ち向かえるほど強いわけではない。
この小説は自分と向き合えなかった人たちの葛藤と苦悩が上手に描かれている作品であり、読んだ人にも色んな角度で刺さる本じゃないかと思います。
今回は本の内容が重めだったので、読みごたえがありました。ページをめくるのが怖くなる箇所が随所にありました(笑)
とても面白かったのでぜひ皆様も手にとってみてください。それでは、またーー
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